CMF Watch 3 Pro：99ドルで王座を狙う、ただし「あの機能」にはご注意を

CMF Watch 3 Pro：99ドルで王座を狙う、ただし「あの機能」にはご注意を

Nothingのサブブランドとして登場したCMFは、その驚異的なコストパフォーマンスで常に私たちを驚かせてきました。そして2025年7月に発表された「CMF Watch 3 Pro」は、その集大成とも言える製品です。99ドルという価格設定ながら、大型のAMOLEDディスプレイ、デュアルバンドGPS、そして10日間以上持続するとされる強力なバッテリーを搭載しています。一見すると、これはAppleやSamsungの高価なモデルを脅かす「市場のバグ」のような存在に思えます。しかし、詳細なレビューと調査を進めると、この魅力的なパッケージには、特に大きな期待が寄せられていた「ある機能」に関して、購入前に絶対に知っておくべき重要な注意点が存在することが明らかになりました。

衝撃の価格設定：CMF Watch 3 Proは市場の「バグ」か？

まず、このスマートウォッチの最大の魅力である価格について触れないわけにはいきません。99ドル（セール時には79ドルにもなる）という価格は、多くの高機能スマートウォッチが数万円することを考えると、まさに破格です。CMFはNothingの「手頃な価格帯」を担うブランドであり、その戦略がこのWatch 3 Proで完璧に体現されています。

この価格帯で、1.43インチの大型AMOLEDディスプレイ、60Hzのリフレッシュレート、そして高精度なデュアルバンドGPSを搭載している点だけでも驚きです。通常、この価格帯の製品は、機能のどこかを大幅に妥協しているものですが、CMF Watch 3 Proのスペックシートは、一見するとミドルレンジからハイエンドのモデルに匹敵するように見えます。この価格設定が、他のブランドにとって大きな脅威となることは間違いありません。

デザインとビルドクオリティ：高級感と「安っぽさ」の二面性

CMF Watch 3 Proのデザインは、多くのガジェット好きの心を掴むでしょう。ミニマルでありながらも存在感のあるデザインは、Nothingの哲学を受け継いでいます。特にオレンジやライトグリーンのカラーウェイは、手首で際立つファッションアイテムとしても機能します。精密に加工された金属製のフレームは、99ドルという価格からは想像できないほどの高級感を漂わせています。

しかし、この評価は絶対的なものではありません。一部のレビューでは、その「軽さ」が逆に「安っぽさ」や「中身が詰まっていない感じ」につながっているという指摘もあります。また、1.43インチというディスプレイサイズは、情報が見やすいという利点がある一方で、手首が細い人にとっては「大きすぎる」と感じるかもしれません。デザインの好みは主観的なものですが、この時計が「軽量でスタイリッシュ」と感じるか、「大きくて安っぽい」と感じるかは、実際に手に取る人によって評価が分かれるポイントとなりそうです。

画面クオリティ：650ニトは屋外で十分か？

ディスプレイは、1.43インチのAMOLED（有機EL）で、解像度は466 x 466、リフレッシュレートは60fpsです。このスペックは、この価格帯では非常に優秀であり、日常の操作は非常にスムーズで快適です。ウォッチフェイスの切り替えや通知のスクロールで、カクつきを感じることはほとんどないでしょう。

一方で、ピーク輝度は650ニト（一部の情報では670ニト）とされています。これは、Apple Watchの最新モデルが2000ニトを超えることを考えると、数値上は見劣りします。しかし、実際の使用感はどうでしょうか。多くの実機レビューによれば、屋内での視認性は全く問題なく、非常に鮮やかです。直射日光が照りつける真夏の屋外など、極端な状況下では少し見づらさを感じるかもしれませんが、日常的な使用シーンにおいて「暗すぎて見えない」と不満を感じることは少ない、というのが実用的な評価のようです。

最大の武器：16日間持続する「異次元」のバッテリー

CMF Watch 3 Proが競合製品を圧倒している最大のポイント、それがバッテリー持続時間です。公式スペックでは「標準使用で13日間」と謳われていますが、これは控えめな数字かもしれません。ある海外の徹底的なレビューでは、通知をオンにし、睡眠追跡や定期的なワークアウト計測（GPS使用含む）を行いながら使用したところ、16日間も充電なしで動作したという報告があります。

これは、毎日あるいは1日おきに充電が必要な多くのプレミアムスマートウォッチ（Apple WatchやPixel Watchなど）のユーザーからすれば、まさに「異次元」の体験です。ヘビーユース（GPSの常時使用など）でも10日間、常時表示ディスプレイをオンにしても4〜5日は持つとされており、バッテリーの心配から解放されるというだけでも、この時計を選ぶ強い理由になります。

唯一無二の欠点？：専用充電器の「クセ」

これほど素晴らしいバッテリー性能を持つWatch 3 Proですが、充電体験には少し不満が残ります。付属する充電器は専用の磁気タイプですが、この磁力が少々弱く、接続が「気難しい」と評されています。時計を充電台に置いたつもりが、少しの振動で外れてしまい、朝起きたら全く充電されていなかった、という事態が起こり得ます。

充電器をカチッと固定するために、時計をディスプレイ面を下にして置かなければならないなど、日常のちょっとしたストレスになる可能性があります。ワイヤレス充電(Qi)に対応していない点も、この価格帯では仕方ないかもしれませんが、充電器の扱いにくさは明確なマイナスポイントです。

フィットネス機能の深掘り：AIランニングコーチの実力

CMF Watch 3 Proは、単なる通知デバイスではありません。フィットネス機能も非常に充実しています。130種類以上のスポーツモードに対応しており、デュアルバンドGPS（L1+L5）のおかげで、高層ビル街や山間部でも正確な位置情報を記録できます。これはランナーやサイクリストにとって非常に重要な機能です。

特に注目すべきは「AIランニングコーチ」機能です。5kmや10kmといった目標距離と目標タイム、トレーニング期間を設定すると、AIが個別のトレーニングプランを作成してくれます。ただし、この機能にも一長一短があり、例えばプラン開始前に要求される「12分間のトライアルラン」は、全くの初心者にとっては少しハードルが高いかもしれません。また、一部の表示がマイル設定にしていてもキロメートルで固定されるなど、ソフトウェアの細かな調整不足も散見されます。

3000ドル超えのベッドに匹敵？：睡眠トラッキングの精度

健康管理機能の中でも、睡眠トラッキングの精度は特筆すべきレベルにあります。あるレビューでは、数千ドル（数十万円）もする高価なスマートベッドシステム「Eight Sleep Pod」と睡眠データを比較するという、興味深いテストが行われました。

その結果は驚くべきものでした。例えば、ある夜のREM睡眠の割合がスマートベッドで28%、Watch 3 Proで25%。深い睡眠がスマートベッドで23%、Watch 3 Proで26%と、非常に近い数値を叩き出したのです。高価な専用機器に匹敵する精度で睡眠の質（深い睡眠、浅い睡眠、REM睡眠、覚醒時間）を分析できるというのは、この時計の隠れた大きな強みと言えるでしょう。

アプリ体験：Nothing Xへの移行と「奇妙な日本語」

この時計は、従来の「CMF Watch」アプリではなく、Nothing製品と共通の「Nothing X」アプリで管理されます。これはアプリのインターフェースが洗練されており、より多くの機能とデータ管理が可能になるため、基本的には良いアップデートです。

しかし、ソフトウェアの「ローカライズ（翻訳）」には課題が残っています。海外のレビューでは、オランダ語の翻訳で「Fitness（フィットネス）」が「Geschiktheid（適切さ、適性）」と誤訳されているという、深刻な問題が報告されています。また、英語表示でも「あなたの睡眠の質は非常に高く、良い精神状態にあるので、常に維持されるべきです」といった、少し機械的で不自然な文章が見られるとのこと。日本のユーザーとしては、日本語の翻訳が自然で正確なものになっているか、少し気になるところです。

競合モデルとの徹底比較：Apple Watch SE、Galaxy Watch FEとの違い

99ドルという価格は魅力的ですが、実際のところ「買い」なのでしょうか。主要な競合製品と比較してみましょう。

• CMF Watch 3 Pro:
  • 強み: 圧倒的なバッテリー（10日以上）、99ドルという価格、高精度なデュアルバンドGPSと睡眠追跡。
  • 弱み: NFC決済非対応、アプリの翻訳品質、ChatGPT機能の制限、充電器の扱いにくさ。
• Apple Watch SE:
  • 強み:
    洗練されたOSとアプリ連携、Apple PayによるNFC決済、iPhoneとの完璧なエコシステム。
  • 弱み: 価格（CMFの数倍）、バッテリー（1～2日）、iPhone必須。
• Samsung Galaxy Watch FE (または同価格帯のGalaxy Watch):
  • 強み: Wear OSによる豊富なアプリ、NFC決済（Google Wallet / Samsung Pay）、エコシステム。
  • 弱み: 価格（CMFより高価）、バッテリー（1～2日）、全機能を使うにはGalaxyスマホ推奨。

この比較から明らかなように、CMF Watch 3 Proは「エコシステムの外にいる人」または「毎日の充電を何よりも嫌う人」にとって、最強の選択肢となります。Apple PayやGoogle Payが不要で、とにかくバッテリーが持ち、基本的な健康管理とGPS追跡ができれば良い、というニーズに完璧に応えます。

最大の論点：ChatGPT機能は「誇大広告」か？

さて、この記事の核心であり、発表時に大きな注目を集めたものの、後に大きな失望を呼んだ最大の不満点、ChatGPT機能についてです。CMF Watch 3 Proは「手首からChatGPTにアクセスできる」ことを大きなウリにしていました。しかし、この機能には非常に大きな、そして残念な制限があります。

このChatGPT機能は、CMF Watch 3 Proを「Nothing Phone」とペアリングした場合にのみ動作します。

これはNothingの公式サポートページでも明記されている事実です。つまり、iPhoneユーザーはもちろん、Samsung、Google Pixel、その他大多数のAndroidスマートフォンを使っているユーザーは、この目玉機能を利用することができません。この事実は、製品のマーケティングにおいてあまり大きくは語られておらず、多くのユーザーが購入後にこの制限に気づき、失望しています。この一点だけでも、購入をためらう理由になり得ます。

入手した情報：CMF Watch 3 Proが生まれるまで

私たちが新製品の情報をいち早く知ることができるのは、メーカーの発表だけが理由ではありません。製品が市場に出る前には、FCC（米国連邦通信委員会）やBIS（インド規格局）といった、世界各国の規制当局の認証を通過する必要があります。

CMF Watch 3 Proも例外ではありません。このモデル（D398）に関する情報は、発売の数ヶ月前から規制当局のデータベースに登場していました。前モデル（D395）の登場から約1年、こうした認証情報を追いかけることで、私たちはCMFが新しい、より高機能な円形ディスプレイのモデルを準備していることを予測できました。ガジェット好きにとって、こうした「答え合わせ」も楽しみの一つです。

CMFの次の一手：AIデバイスとWatch 4への期待

CMFはNothingからスピンオフし、独立した会社としての歩みを始めるとの発表もありました。彼らの未来は、このWatch 3 Proだけに留まりません。NothingのCEOであるカール・ペイ氏は、2026年に向けて「AIネイティブなデバイス」を開発していると語っています。それは従来のスマートフォンの形ではない、新しいデバイスになる可能性を示唆しています。

CMF Watch 3 ProがAI機能（ChatGPT）でつまずいた今、次世代の「CMF Watch 4（仮）」には何を期待すべきでしょうか。まずは、NFC決済への対応。そして、扱いにくい充電器の改善（できればQi対応）。さらに、AI機能のプラットフォームを選ばない解放。そして、手首の細い人向けの小型モデルの追加。これらが実現すれば、CMFは低価格帯市場を完全に制圧するかもしれません。

まとめ

CMF Watch 3 Proは、99ドルという価格設定を考えれば、間違いなく「驚異的な」スマートウォッチです。特に、一度の充電で16日間も動作したという実証済みのバッテリー性能、高価なスマートベッドに匹敵する睡眠トラッキング精度、そしてデュアルバンドGPSの搭載は、他のどの競合製品も追随できない強力な魅力を持っています。デザインの好みは分かれるものの、その質感は価格を大きく超えています。

ただし、この時計は万人に勧められる完璧な製品ではありません。最大の目玉機能として宣伝されたChatGPTは、Nothing Phoneの所有者でなければ使えないという「罠」があります。また、NFC決済には対応しておらず、専用充電器は日常的なストレス源になる可能性があります。ソフトウェアの翻訳に見られる細かな粗さも、今後のアップデートで改善を期待したい点です。

CMF Watch 3 Proの注目ポイント

• 99ドルという衝撃的な価格設定。
• 標準使用で13日以上、実測16日間という異次元のバッテリー。
• デュアルバンドGPSや高精度睡眠追跡など、価格不応な高性能センサー。
• 大きく明るい1.43インチAMOLEDディスプレイ。
• Nothing Xアプリによる、洗練された（しかし翻訳に難ありの）管理体験。
• 注意点: ChatGPT機能はNothing Phoneが必須。
• 注意点: NFC決済（Apple PayやGoogle Pay）は非対応。
• 注意点: 専用充電器の磁力が弱く、扱いにくい。

結論

では、結局のところCMF Watch 3 Proは「買い」なのでしょうか。答えは、あなたが何を求めるかによって明確に分かれます。もしあなたがApple WatchやGalaxy Watchのような「スマートフォンの延長線上にある体験」や「シームレスな決済機能」を最重要視するなら、この時計は選ぶべきではありません。また、ChatGPT機能に惹かれて購入を検討しているiPhoneユーザーやPixelユーザーは、絶対に手を出してはいけません。

しかし、もしあなたが「毎日の充電地獄から解放されたい」と強く願っており、「正確な健康管理とGPS追跡」を「圧倒的な低価格」で手に入れたいのであれば、CMF Watch 3 Proは現時点で最高の選択肢です。ChatGPT機能が使えないことやNFCがないことを受け入れた上で、この「バッテリーお化け」を手に入れる価値は十分にあります。