SOUNDPEATS Air5 Pro+：xMEMSとロスレスが織りなす音響革命
ワイヤレスイヤホンの進化は、ついに「素材」と「構造」の根本的な変革期に突入しました。2025年10月に登場したSOUNDPEATSの最新フラッグシップモデル「Air5 Pro+」は、単なるスペックアップにとどまらない、オーディオ体験の再定義を試みる意欲作です。次世代のソリッドステートスピーカー技術であるxMEMSドライバーと、Qualcommの最先端プラットフォームを融合させた本機は、私たちがこれまで「ワイヤレスでは限界がある」と諦めていた音の壁を軽々と超えてきました。静寂の中に浮かび上がる微細な音の粒子、そして圧倒的な没入感。今回は、VGP2025 SUMMERで金賞を受賞し、業界の注目を一身に集めるこのハイエンドモデルの実力を、技術的な背景と共に徹底的に紐解いていきます。
xMEMSドライバー「Cowell」が描く微細な音像
シリコンが生み出す音の革命
本機の最大の特徴であり、オーディオマニアの心を掴んで離さないのが、xMEMS Labs社製のソリッドステートドライバー「Cowell」の採用です。従来のイヤホンドライバーは、コイルとマグネットを用いて振動板を物理的に動かす方式が主流でした。しかし、xMEMS技術は半導体製造プロセスを用いてシリコンチップ自体を振動板として機能させます。これにより、物理的な可動部品が極限まで減り、従来のダイナミックドライバーやバランスドアーマチュア（BA）ドライバーでは避けられなかった「位相のズレ」や「音の立ち上がりの遅れ」を物理レベルで解消しています。
圧倒的な応答速度と位相特性
具体的な数値で見ると、MEMSドライバーは従来のドライバーと比較して約4倍の応答速度を誇ります。これは、ドラムのハイハットが叩かれた瞬間の鋭い金属音や、バイオリンの弦が擦れる瞬間の微細なニュアンスが、滲むことなく鼓膜に届くことを意味します。実際に聴取すると、音の輪郭が驚くほどシャープでありながら、金属的な刺々しさが皆無であることに気づきます。これはシリコン振動板の高い剛性と軽量性が、不要な共振を徹底的に排除しているためです。
専用アンプによる駆動の最適化
この高性能なxMEMSドライバーを駆動させるために、SOUNDPEATSは専用のClass-Hアンプ「XAA-2000」を搭載しました。MEMSドライバーは電圧駆動型であり、従来のアンプ回路とは異なる設計思想が求められます。この専用アンプがドライバーのポテンシャルを最大限に引き出し、高音域の伸びやかさと、耳に優しい自然な温かみを両立させています。長時間リスニングしていても聴き疲れしない「柔らかい解像度」は、このアンプとドライバーのマリアージュによる賜物です。
ハイブリッド構成がもたらす全帯域の支配力
10mmダイナミックドライバーの役割
高音域をxMEMSが担当する一方で、中低域の厚みを支えるのは10mmの大口径ダイナミックドライバーです。ここでは、単なる汎用品ではなく、2層構造のデュアル銅線複合振動板が採用されています。PU（ポリウレタン）とPEEK（ポリエーテルエーテルケトン）という異なる特性を持つ素材を組み合わせることで、低音の「深さ」と「スピード感」を両立させています。
歪みを抑えた迫力の低音
PU素材が持つ適度な内部損失が不要な振動を吸収し、PEEK素材の高い剛性が正確なピストンモーションを実現します。これにより、ベースラインが重なるような複雑な楽曲でも、低音が団子状態にならず、一音一音が明瞭に分離して聞こえてきます。xMEMSの繊細な高音と、このダイナミックドライバーの力強い低音がクロスオーバーする帯域においても、違和感のないスムーズな繋がりが実現されており、あたかも一つの巨大なフルレンジスピーカーで聴いているかのような一体感があります。
Snapdragon Soundとロスレス伝送の真価
Qualcomm S3 Sound Platformの恩恵
心臓部にはQualcommの最新チップセット「S3 Sound Platform」が搭載されています。これは単に接続が安定するというレベルを超え、演算処理能力の大幅な向上により、オーディオ処理の品質を底上げしています。特にS/N比（信号対雑音比）の改善は著しく、楽曲の無音部分における「静寂の深さ」が際立っています。
aptX LosslessによるCDクオリティの再現
特筆すべきは「aptX Lossless」への対応です。従来のハイレゾコーデック（LDAC等）は、データ量は多いものの、伝送過程で不可逆圧縮を行っていました。しかし、aptX Losslessは、CDクオリティ（16bit/44.1kHz）の音源をビットパーフェクトで伝送することが可能です。これは、アーティストがスタジオで録音した音源データが、1ビットも欠落することなく耳元まで届くことを意味します。
LDACとHi-Res認証のダブルスタンダード
Androidユーザーにとって嬉しいのは、aptX Losslessだけでなく、LDAC（最大24bit/96kHz）にも対応している点です。これにより、使用するスマートフォンや再生機器の環境に左右されず、常に最高レベルの音質を引き出すことができます。日本オーディオ協会が定める「Hi-Res Audio Wireless」ロゴと、Qualcommの「Snapdragon Sound」ロゴのダブル認証は、この製品が到達した高い技術水準の証左と言えるでしょう。
業界最高クラス-55dBの静寂空間
AIアダプティブANCの知性
ノイズキャンセリング性能においても、Air5 Pro+は妥協していません。最大-55dBという数値は、現行の完全ワイヤレスイヤホン市場においてトップクラスの性能です。しかし、重要なのは数値の大きさだけではありません。「AIアダプティブANC」機能が、環境に合わせてノイズ低減レベルをリアルタイムで最適化する点にあります。
状況に応じた最適解
例えば、飛行機のジェットエンジンのような持続的な低周波ノイズに対しては強力なキャンセリングを行い、カフェのような人の話し声が混じる環境では、中高域のノイズ処理に重点を置くといった調整を自動で行います。これにより、強力なANC特有の「耳が詰まるような圧迫感」を感じることなく、自然な静寂を得ることができます。
多彩なモード切り替え
専用アプリ「PeatsAudio」を使用すれば、外音取り込みモードや会話強調モードなど、シチュエーションに応じた詳細な設定が可能です。特に外音取り込みの自然さは特筆すべきで、イヤホンを装着したままでも、まるで耳に何も着けていないかのような感覚で周囲の音を聞き取ることができます。
まとめ
SOUNDPEATS Air5 Pro+は、ワイヤレスオーディオの「次の10年」を見据えたマイルストーン的な製品です。xMEMSドライバーという革新的なハードウェアを核に、Snapdragon Soundによる最新の伝送技術、そしてAIを駆使したノイズキャンセリングが見事に融合しています。
- 革新のxMEMS: シリコン製ドライバーと専用アンプが奏でる、歪みなき超高解像度サウンド。
- 究極のハイブリッド: 10mm複合振動板DDとの組み合わせによる、全帯域にわたるダイナミックな表現力。
- 真のロスレス体験: aptX LosslessとLDACの両対応により、音源のポテンシャルを100%引き出す接続性。
- 静寂の質: -55dBの強力なANCと、環境に適応するAIの知能による快適なリスニング空間。
結論
Air5 Pro+は、単にスペックが高いだけのガジェットではありません。それは、音楽製作者が意図した「音の質感」や「空気感」を、ワイヤレスという制約の中で極限まで忠実に再現しようとするエンジニアたちの執念の結晶です。VGP2025 SUMMER金賞という実績は、その実力が本物であることを客観的に裏付けています。もしあなたが、これまでのワイヤレスイヤホンの音質にどこか物足りなさを感じていたなら、この製品こそが、その渇きを癒やす最適解となるでしょう。音楽を聴く道具ではなく、音楽に浸るための空間を持ち歩く。そんな贅沢な体験が、ここにはあります。
