DJI Mavic 4 Pro vs Inspire 3:価格差10倍の価値は?究極のドローン画質比較

DJIのドローンラインナップにおいて、「Mavic」シリーズは常に最先端の技術と携帯性を両立させ、多くのクリエイターにとっての標準機であり続けてきました。そして「Inspire」シリーズは、妥協のない画質とプロフェッショナルなワークフローを提供する、空撮シネマカメラの頂点として君臨しています。Mavic 4 Proが登場し、そのメインカメラが4/3型センサーによる6K撮影に対応した今、多くの映像制作者が抱く疑問は一つです。「果たして、6倍から10倍もの価格差を支払ってまでInspire 3を選ぶ理由は、まだ存在するのか?」本記事では、この二つの異なる哲学を持つフラッグシップ機を、画質、運用性、そしてプロの現場での要求という観点から徹底的に比較・分析します。
核心的な問い:Mavic 4 ProはInspire 3にどこまで迫ったか
Mavic 4 Proの登場は、ドローン空撮の勢力図を大きく塗り替える可能性を秘めています。その心臓部にはHasselbladが監修した4/3型CMOSセンサーが搭載され、最大6K/60fpsのHDR動画撮影に対応しました。さらに、1/1.3インチと1/1.5インチのセンサーを持つデュアル望遠カメラを備えた3カメラシステムは、これまでのMavicシリーズとは一線を画す表現力を備えています。特に注目すべきは、メインカメラがD-Log MモードとAuto ISOの組み合わせにより、最大17.7ストップという驚異的なダイナミックレンジを実現するとされている点です。これは、フルフレームセンサーを搭載するInspire 3に肉薄、あるいは特定の条件下では凌駕する可能性すら示唆しています。
対するInspire 3は、もはや「ドローン」というより「空飛ぶシネマカメラ」と呼ぶべき存在です。フルフレームセンサー「X9-8K Air」を搭載し、最大8.1K/75fpsのProRes RAW収録に対応。これは、ポストプロダクションでの圧倒的な編集耐性と、映画館のスクリーンにも耐えうる超高解像度を意味します。さらに、レンズは交換式であり、専用設計された高品質な単焦点レンズ群(DLマウント)が、Mavic 4 Proの固定式レンズでは到達し得ない光学的な「深み」と「ボケ」をもたらします。
価格差は、Mavic 4 Proのコンボセットが数十万円であるのに対し、Inspire 3は本体、カメラ、レンズ、RAWライセンス、大量のバッテリーなどを揃えると数百万円に達します。この「10倍」とも言われるコスト差が、果たして現代の映像制作において正当化されるのか。画質の差は価格差ほど明確なのか、それとも運用性やワークフローを含めた「総合力」にこそ価値があるのか。この二台の比較は、単なるスペック競争ではなく、現代の映像クリエイターが「何を撮るために、どのツールを選ぶべきか」という本質的な問いを突きつけています。
画質の直接対決:センサーサイズとコーデックの壁
映像の品質を決定づける最大の要因は、センサーサイズと収録コーデックです。Mavic 4 Proは4/3型センサー、Inspire 3はフルフレームセンサーを採用しています。センサーサイズが大きいほど、より多くの光を取り込むことができ、一般的に低照度性能やダイナミックレンジ、そして浅い被写界深度(ボケ)において有利になります。しかし、Mavic 4 Proは前述の通り17.7ストップという驚異的なダイナミックレンジを謳っており、単純なセンサーサイズだけでは語れない技術的進歩を見せています。
本当の「壁」となるのは、収録コーデックです。Inspire 3は、Apple ProRes RAWまたはProRes 422 HQでの内部収録が可能です。特にProRes RAWは、センサーから得られた生の(RAW)データを最小限の圧縮で記録する形式です。これにより、ポストプロダクション(編集作業)において、ISO感度やホワイトバランスを撮影後でも自由に調整できるなど、まるでデジタル現像のような柔軟性を持ちます。これは、撮影現場で露出や色温度が刻々と変化する中で、最高のクオリティを引き出すために不可欠な機能です。実際、Inspire 3はこのProRes RAW収録能力が評価され、Netflixの認定カメラリストにも名を連ねています。これは、世界最高水準の映像品質が求められる現場での「お墨付き」を得たことを意味します。
一方、Mavic 4 ProはH.264/H.265のAll-I(イントラフレーム圧縮)コーデックに対応しています。これも非常に高品質なコーデックであり、10-bit D-Log Mで記録すれば豊かな色彩情報とダイナミックレンジを保持できます。しかし、これらはあくまで圧縮コーデックであり、ProRes RAWのような「生データ」ではありません。ポスト処理での過度なカラーグレーディングや露出補正には限界があり、ProRes RAWほどの耐性はありません。また、データレート(情報の密度)においても、Inspire 3のProRes RAWが数Gbpsに達するのに対し、Mavic 4 ProのAll-Iは数百Mbpsです。この差が、最終的な画の「粘り」や「リッチさ」に影響してくるのです。ファイルサイズはInspire 3が圧倒的に巨大になりますが、それは品質と引き換えのトレードオフと言えます。
光学性能の差:「画像の深み」と「背景ボケ」
トランスクリプトの解説者が指摘した「画像の深み(depth of the image)」という感覚的な表現は、まさにInspire 3の光学性能の優位性を的確に示しています。これは、解像度やダイナミックレンジといったスペックシート上の数値だけでは測れない、レンズの「味」とも言える領域です。Inspire 3は交換レンズ式を採用しており、例えば75mm F1.8といった大口径の単焦点レンズを使用できます。これらのレンズは、Mavic 4 Proに搭載されている(非常に優秀ではあるものの)小型化された固定レンズと比較して、コーティング、球面収差の補正、マイクロコントラスト(微細な明暗の描き分け)といった点で、明らかに優れています。
この光学性能の差は、特に被写界深度(ボケ)において顕著に現れます。フルフレームセンサーとF1.8のような明るいレンズの組み合わせは、ドローン空撮では稀有な「美しくクリーミーな背景ボケ」を生み出します。被写体を際立たせ、背景を整理するこの表現は、映像に映画的な(シネマティックな)印象を与える上で極めて強力な武器となります。Mavic 4 Proの4/3型センサーとF2.8(メインカメラ)のレンズでもボケは得られますが、Inspire 3が作り出すような、被写体から滑らかに溶けていくようなボケの質とは比較になりません。
もちろん、この浅い被写界深度は諸刃の剣でもあります。空撮でフォーカスがシビアになるため、Inspire 3の運用がデュアルオペレーター(パイロットとカメラマン)を前提としている理由の一つがここにあります。一人が操縦に集中し、もう一人がカメラワークとフォーカス送りに集中することで、初めてこの光学性能を最大限に引き出すことができるのです。
驚異の低照度性能:月光すら捉えるInspire 3
日中の明るい環境下では、Mavic 4 ProとInspire 3の画質差は、特にWeb上で見る限りにおいては縮まってきているかもしれません。しかし、光量が乏しい環境、すなわち低照度下では、両者の間には再び明確な差が生まれます。Mavic 4 Proの4/3型センサーとF2.8レンズ(メインカメラ)は、これまでの小型ドローンと比較すれば驚くほどノイズが少なく、夜景撮影でも十分なクオリティを発揮します。全方向障害物検知が0.1ルクスという暗さでも機能するようになり、安全な夜間飛行が可能になった点も大きな進化です。
しかし、Inspire 3は文字通り「異次元」の低照度性能を誇ります。フルフレームセンサーの圧倒的な集光能力に加え、前述のF1.8レンズ、さらにはサードパーティ製のF1.2やF0.95といった超大口径レンズを装着することすら可能です。トランスクリプトで言及されているように、Inspire 3はこれらのレンズと組み合わせることで、「月光のみ」という極限の暗闇の中で、雪景色をノイズレスでクリアに撮影することができます。これはMavic 4 Proでは絶対に不可能な領域であり、ドキュメンタリーや映画で、人工照明を使わずに夜のリアリティを捉えたい場合に絶大な威力を発揮します。
さらに、Inspire 3はパイロット用のFPV(一人称視点)カメラにも「ナイトビジョンFPVカメラ」を搭載しています。これは、メインカメラが暗闇を捉えている間も、パイロットは周囲の障害物や地形を視認できることを意味し、プロフェッショナルな現場での夜間飛行の安全性を根本から支える設計となっています。
焦点距離の柔軟性:3カメラスマート vs レンズ交換
空撮において焦点距離の選択は、映像表現の幅を決定づける重要な要素です。この点において、Mavic 4 ProとInspire 3は全く異なるアプローチを取っています。Mavic 4 Proは、広角のメインカメラ(4/3型)、中望遠の70mm(1/1.3インチ)、そして望遠の168mm(1/1.5インチ)という3つの異なる焦点距離を持つカメラを一つの機体に搭載しています。この最大の利点は「スピード」です。飛行中に瞬時にカメラを切り替えることで、着陸することなく多彩なカットを撮影できます。これは、ロケハンや、刻々と状況が変わるドキュメンタリー、あるいはワンオペレーションでの撮影において、計り知れないアドバンテージとなります。
対するInspire 3は、伝統的なレンズ交換式です。焦点距離を変えたい場合、一度ドローンを着陸させ、手動でレンズを交換し、再び離陸する必要があります。これはMavic 4 Proの利便性と比較すると、明らかに手間であり時間もかかります。しかし、このトレードオフと引き換えに得られるのは、全ての焦点距離において「フルフレームセンサー」と「高品質な単焦点レンズ」の組み合わせが使えるという、画質面での絶対的な優位性です。
また、Inspire 3は8.1Kという膨大な解像度を持っているため、例えば75mmレンズで撮影した映像をポストプロダクションで200%クロップ(拡大)しても、なお高品質な4K映像(150mm相当)として使用できるというテクニックもあります。Mavic 4 Proの168mm望遠カメラは非常に強力ですが、センサーサイズが1/1.5インチと小さくなるため、光量が十分でないと画質の低下が目立つ可能性があります。一方、Inspire 3はどのレンズを使っても(あるいはクロップしても)、フルフレームの画質が担保されるのです。
写真性能の比較:画素数とダイナミックレンジ
ドローンは動画機材としてだけでなく、高解像度のスチル(静止画)カメラとしても重要な役割を担います。Mavic 4 Proのメインカメラは、クアッドベイヤーセンサーにより通常25MP、高解像度モードでは100MP(1億画素)の写真を撮影できます。100MPモードは驚異的な解像度を誇りますが、ピクセルを分割して生成する仕組み上、ダイナミックレンジが低下する可能性がある点は留意が必要です。しかし、25MPモードでも十分すぎるほどのディテールと、Hasselblad監修による優れた色再現性を持っています。
Inspire 3は、約45MP(4500万画素)のフルフレームセンサーを搭載しています。画素数ではMavic 4 Proの100MPモードに及びませんが、センサーサイズとピクセルピッチ(1画素あたりの大きさ)の余裕から、ダイナミックレンジや色深度において非常に優れています。特にレンズの光学性能がそのまま反映されるため、画像の隅々までシャープで、豊かな階調を持つ「作品」としての写真を撮影するのに適しています。
機能面では、Mavic 4 Proが自動でのパノラマ撮影やタイムラプス、ハイパーラプスといったスマート機能を豊富に搭載しているのに対し、Inspire 3はAEB(オート露出ブラケティング)など基本的な機能に留まります。これは、Inspire 3が「プロがマニュアルで作り込む」ことを前提としたツールであることの表れでもあります。
現場での運用性:セットアップと携帯性
プロの現場では画質と同じくらい「Time to Fly(飛行準備時間)」が重要です。この点においては、Mavic 4 ProがInspire 3を完全に圧倒しています。Mavic 4 Proは、アームを折りたためばバックパックに収まるほどコンパクトです。現場に到着したら、アームを展開し、バッテリーを挿入し、送信機の電源を入れれば、数分後には離陸準備が整います。新しい自動電源オン機能などは、このプロセスをさらに高速化しています。
一方、Inspire 3の運用は「儀式」に近いです。まず、専用の巨大なスーツケースから、本体、送信機、プロペラ、バッテリー(2本)、カメラ(X9-8K Air)、レンズ、SSDといった多くの部品を取り出す必要があります。それぞれを確実に取り付け、キャリブレーションを確認し、ようやく離陸準備が整います。このセットアップにはかなりの時間とスペースが必要であり、Mavic 4 Proのような「思い立ったらすぐ飛ばす」という機動性は期待できません。
この差は、撮影スタイルに決定的な影響を与えます。Mavic 4 Proの手軽さは、「とりあえず飛ばしてみよう」というクリエイティブな試行錯誤を促します。Inspire 3の重厚さは、「このカットを撮る」という明確な意図と計画性、そしてそれを支えるチーム(最低2人)を要求します。
飛行性能とバッテリー:Mavic 4 Proの「持続力」
飛行性能においても、両者には明確な差が存在します。まずバッテリー寿命ですが、Mavic 4 Proは公式スペックで最大51分という驚異的な飛行時間を実現しています(トランスクリプトでは約40分とされていましたが、最新のMavic 4 Proではさらに進化しています)。これは、1フライトでじっくりと構図を練ったり、長回しの撮影を行ったりする上で大きなアドバンテージです。
対するInspire 3は、巨大な機体と高性能カメラを飛ばすために、専用バッテリーを2本同時に使用しますが、それでも飛行時間は約20分程度(公式スペックでは最大28分)と、Mavic 4 Proの半分以下です。さらに、このバッテリーは非常に高価であり、プロの現場で必要とされる多数のバッテリーセットを揃えるだけで、Mavic 4 Pro本体が買えてしまうほどの追加投資が必要になります。
飛行速度に関しては、両者とも時速90km/h近い最高速度(スポーツモード時)を誇り、高速で移動する被写体を追う能力は十分に備えています。しかし、現場での信頼性に直結する「映像伝送システム」において、興味深い逆転現象が起きています。
O4 vs O3 Pro:伝送システムの違いが意味するもの
Mavic 4 Proは、DJIの最新映像伝送システムである「O4+」を搭載しています。これにより、日本国内(MIC規格)においても、理論値で最大15kmという長距離かつ安定した映像伝送を実現しています。低遅延で高画質なライブビュー(1080p/60fps)は、パイロットに安心感を与え、より複雑な操作への集中を可能にします。
一方、Inspire 3が搭載するのは「O3 Pro」システムです。これはプロのデュアルオペレーター(2人操作)運用に特化しており、パイロットとカメラオペレーターがそれぞれ独立した高画質ライブビューを受信できる非常に高度なシステムです。しかし、最大伝送距離という点では、日本国内(MIC規格)において最大8km(1080p/60fps時)と、Mavic 4 ProのO4+に及びません。
つまり、シングルオペレーターが長距離で安定した飛行を求めるならばMavic 4 Proが優位であり、デュアルオペレーター体制で確実な連携を行うならばInspire 3のO3 Proが必須、という棲み分けがなされています。トランスクリプトで「Mavic 4の方が信号範囲が優れている」と指摘されていたのは、このO4+の恩恵によるものだったのです。
プロのワークフロー:デュアルオペレーターとSSD
Inspire 3が「プロ機」である最大の理由は、そのワークフローが映画やCMといった大規模な撮影現場に最適化されている点にあります。前述の通り、Inspire 3はパイロットとカメラオペレーターのデュアルオペレーター運用を前提に設計されています。パイロットは機体の操縦と安全確保に専念し、ナイトビジョンFPVカメラで進行方向を確認します。その間、カメラオペレーターは送信機(DJI RC Plus)でメインカメラ(X9-8K Air)の映像を見ながら、ジンバルの操作(パン、チルト、ロール)とフォーカス、露出を精密にコントロールします。これにより、Mavic 4 Proのシングルオペレーターでは物理的に不可能な、複雑かつダイナミックなカメラワークが実現可能になります。
さらに、Inspire 3は記録メディアとしてスワップ可能なPROSSDを採用しています。1TBのSSDに着陸後すぐにアクセスでき、撮影データを現場のDIT(デジタル・イメージング・テクニシャン)に渡すことができます。DITがデータをバックアップしている間に、クルーはバッテリーとSSDを交換し、すぐに次のフライトに備えることができます。この「撮影→データ受け渡し→次フライト準備」というシームレスなサイクルは、時間が厳しく管理されるプロの現場では不可欠な機能です。
Mavic 4 ProもCineモデルであれば内部SSDを搭載していますが、基本はシングルオペレーターがSDカードまたは内部メモリのデータを自分で管理するスタイルであり、Inspire 3のような分業体制には最適化されていません。
スマート機能と障害物回避:Mavic 4 Proの「賢さ」
Inspire 3が「プロの手足」として機能するツールであるのに対し、Mavic 4 Proは「賢いアシスタント」としての側面を併せ持ちます。Mavic 4 Proは、全方向障害物検知システムに加えて前方LiDARを搭載しており、0.1ルクスという低照度下でも正確に障害物を認識し、回避することができます。Inspire 3も360度の障害物検知を備えていますが、Mavic 4 Proほどの高度なLiDARは前方には搭載しておらず、低照度での回避性能には差があります。
この高度な障害物回避システムと強力なプロセッサの組み合わせにより、Mavic 4 ProはActiveTrack 360°や各種クイックショットといった、高度な自動飛行(スマート機能)を実現しています。被写体を指定すれば、ドローンが自動で障害物を避けながら滑らかな追尾映像を撮影してくれるため、シングルオペレーターであっても、まるで2人体制で撮影したかのような複雑なショットを安全かつ簡単に得ることができます。
Inspire 3にも被写体トラッキング機能はありますが、これはあくまでカメラが被写体を追い続けるのを補助する機能であり、Mavic 4 Proのようにドローンが自動で飛行経路を生成してくれるものではありません。Inspire 3では、すべての飛行がパイロットの技術に委ねられているのです。
安全性と規制:機体重量がもたらす運用の壁
見落とされがちですが、両者の運用を決定的に分けるのが「機体重量」とそれに伴う「法規制」です。Mavic 4 Proの離陸重量は約1063g(約1.06kg)です。一方、Inspire 3の最大離陸重量は約4310g(約4.3kg)にも達します。
2025年現在の日本の航空法では、どちらも100g以上であるため「特定飛行」に該当し、人口集中地区(DID)や夜間、目視外飛行などを行う場合は、DIPS(ドローン情報基盤システム)を通じた許可・承認が必要です。しかし、リスク評価において1kgクラスの機体と4kgクラスの機体では、その危険度が全く異なります。重量が4倍になれば、衝突時の運動エネルギーも単純計算で4倍になります。
そのため、Inspire 3のような重量級ドローンを運用するには、Mavic 4 Proよりもはるかに厳格な安全管理体制(例えば、補助者の増員、飛行エリアの厳密な管理、デュアルオペレーター体制の義務化など)が求められるケースが多くなります。Mavic 4 Pro(1kgクラス)も決して手軽ではありませんが、Inspire 3の運用ハードルは、法規制の面でも格段に高いと言えるでしょう。
コストパフォーマンス再考:10倍の価格差はどこに消えるのか
Mavic 4 Proの登場により、「ほとんどの商業撮影はMavic 4 Proで十分ではないか」という声が大きくなっているのは事実です。その画質、機動力、スマート機能は、小規模なプロダクションや個人のクリエイターにとっては、まさに夢のようなパッケージです。100万円以下の投資で、かつては数百万円のInspireクラスでしか撮れなかった(あるいはそれ以上の)映像が手に入るのですから、そのコストパフォーマンスは計り知れません。
では、Inspire 3の10倍の価格はどこに消えているのでしょうか。それは、「ProRes RAW」「フルフレームの光学性能」「デュアルオペレーター前提の設計」「Netflix承認」という、妥協を許されないプロフェッショナルの要求に応えるためのコストです。Inspire 3は、Mavic 4 Proが「95点の映像」を撮れるツールだとしたら、残りの「5点」を完璧に埋め、100点以上の映像を追求するための機材です。映画やハイエンドCMの現場では、ポストプロダクションでの柔軟性や、レンズが持つ独特の「味」が、その作品の品質を左右する決定的な差になり得ます。
Inspire 3への投資は、機材の性能だけでなく、それを運用するチーム(人件費)、膨大なデータを扱うストレージと編集環境(設備費)、そして法規制をクリアするための厳格な運用体制(管理費)への投資も含む「システム」としての価格なのです。
まとめ
DJI Mavic 4 ProとInspire 3の比較は、単なるスペックシートの比べ合いではありませんでした。Mavic 4 Proは、驚異的なダイナミックレンジ、高速なセットアップ、賢いスマート機能、そして優れた伝送システムを備え、「個」のクリエイティビティを最大化するツールとして、一つの完成形に達しています。その映像品質は非常に高く、多くのプロフェッショナルな制作現場の要求を満たすことができます。
しかし、Inspire 3は依然としてドローン空撮の「頂点」に君臨しています。その価格差は、フルフレームセンサー、ProRes RAWコーデック、交換可能なシネマレンズ群、そしてデュアルオペレーターによる完璧なワークフローという、「妥協」を一切排した映像制作のために支払われる対価です。Netflix承認という事実は、その品質が世界基準であることを示しています。Mavic 4 ProがInspire 3に肉薄したことは事実ですが、Inspire 3でしか到達できない「領域」もまた、明確に存在し続けています。
- Mavic 4 Proがおすすめな人: 高画質と機動性を両立させたい個人クリエイター、小規模プロダクション、ワンオペレーションでの撮影が多い方、スマートな自動飛行機能を活用したい方。
- Inspire 3がおすすめな人: 映画・ハイエンドCM制作、Netflix承認が必要なプロジェクト、ProRes RAWワークフローが必須なプロダクション、デュアルオペレーター体制が組める方、最高の光学性能と低照度性能を妥協なく追求する方。
結論
Mavic 4 Proの登場により、かつてInspire 3でなければならなかった仕事の多くが、Mavic 4 Proで代替可能になったことは間違いありません。その意味で、Mavic 4 Proはドローン市場における「ゲームチェンジャー」です。しかし、Inspire 3の10倍の価格差は、決して「ぼったくり」ではなく、「95点を99点にする」ためではなく、「100点満点の撮影システム」を構築するために必要な、明確な理由に基づいたコストです。あなたの制作スタイル、予算、そしてクライアントが要求する品質レベルが、この二つの究極の選択において、どちらが「正解」なのかを導き出してくれるはずです。


